とちぎエネットです。

太陽でお湯を沸かすことは実に簡単なことですが、東北地方や北海道などの寒冷地では、真冬の凍結が心配になります。

どのような対策をしても、水を扱う限りどこかで凍ったり漏れたりすることはあり得るわけです。

そのために太陽熱利用ができない、難しいとして実行される人はほとんどいないのが実情ではないでしょうか。

そんな中、北海道の方からどうしても太陽熱温水器を使いたいとの問い合わせがありましたので、とりあえず分離分割型をお薦めしておきました。

この方式であれば、貯湯タンクを室内に置き、循環水に不凍液を使うことで極寒冷地でも太陽熱を利用することができます。

ただ、凍結を心配するならPCM温風器でお湯を沸かす方が良いので、今回改めて比較してみることにしました。

分離分割型300Lは18本のパネルが2枚(36本)になりますが、PCM温風器では真空管30本のパネル1枚です。

設置の手間も大きく違いますが、占有面積もかなり少なくなるので検討の余地がありそうです。

(目次)

1.PCM温風器でお湯を作る

2.分離分割型との比較

3.中国の普及状況

4.まとめ

1.PCM温風器でお湯を作る

それでは、ソーラーエアーヒーター(以下、PCM温風器)でどのように温水を作るのでしょうか。

※ソーラーエアーヒーターは筑能科技社の製品です。

温風でお湯を沸かす発想は特に新しいものではありませんが、これにPCMを組み合わせたところが斬新なわけです。

写真は、性能を確認するために輸入した2台の内の1台です。

真空管は30本で、中にPCM(相変化材料)が入っていますので、日中は採熱しながら30MJ(メガジュール)まで蓄熱ができます。

ソーラーエアーヒーター

下の図は、温風で暖房と温水に利用するシステムのイメージです。

仕組みは単純で、専用のタンク(カプセル式)を使い、インナータンクの外側を電動ファンにより空気を循環させ、水を温めるというものです。

分離分割型の太陽熱温水器の場合には、タンク内部のコイルで熱交換します。

基本的な構成は分離分割型の太陽熱温水器と同じですが、熱交換媒体が空気となります。

(機材の概要)

1)PCM+真空管

太陽熱を得るために、真空管内部のPCMが採熱と蓄熱を同時に行います。

下側から空気が入り、真空管内を通過すると内部のPCMが反応して熱を発生します。

発生した熱は電動ファンでタンクに送られ、水を温めます。

PCMを使うメリットは、採熱と同時に蓄熱ができることにあります。

真空管採熱器は、入る太陽光の全てが熱として利用できるわけではなく、何割かはロスしているわけです。

そのロス分をPCMが、1本で1MJ、パネル1枚で30本ありますから30MJ蓄熱ができることになります。

分離分割型の300Lが真空管36本に対し、PCM温風器は30本ですから、約2割ほど性能が高いということになります。

2)循環ファン(シロッコファン)

採熱器とタンクの中間に設置し、空気を循環させます。

運転の仕方は、分離分割型のように温度センサーを使って一定の温度差が発生したら駆動するようにします。

私が大きなメリットと思っているのは、故障した時の交換が簡単である点です。

分離分割型の循環ポンプは、ワークステーションに組み込まれており、故障した場合は全交換になる可能性が高いです。

いずれも滅多なことでは故障はしないと思いますが、電動ファンなら簡単に入手でき、自分で交換できるのは見逃せません。

欠点があるとすれば、配管には100mmの鋼管を使うため、保温も水道管に較べてやりにくいかも知れません。

3)貯湯(蓄熱)タンク

貯湯タンクは二重構造になっており、インナータンクに水が入り、その外側に温風を循環させ、水温を上昇させる構造になっています。

タンクの中心にはPCMの蓄熱芯があり、水温が60℃以上になると蓄熱されるとのことです。

つまり、一般的なタンクでは使わないでいると放熱してしまいますが、PCMで保存できるため、無駄なく使えることになります。

このように、価格はPCMの蓄熱芯があるために高くなりますが、放熱を最小にする技術と考えれば価値は高いと考えます。

4)床暖房

図ではパネル4枚となっていますが、300Lのタンクなら給湯用は1枚で済むので3枚が暖房用となります。

暖房の目安は、50㎡/枚ですが、注目したいのは床暖房用の熱源がタンク中心にある蓄熱柱(PCM)です。

蓄熱柱には一定以上の温度になると熱が蓄えられますが、ここをコイル状に循環水を配置することで温水からの熱と併せて効果的に熱の移動を図るシステムです。

2.分離分割型との比較

分離分割型の太陽熱温水器も非常に優れたシステムで、価格はタンク一体型よりもかなり高額にはなってしまいますが、それだけの価値のあるものです。

比較しているのは、タンク容量300Lですが、いずれもタンク容量及び採熱器の組み合わせが自由にできます。

※PCM温風器の価格は、採熱パネル及び貯湯タンク及びコントーラで、電動ファンは含みません。

※分離分割型は連結のため、0.5mほど幅が多く必要になります。

300Lは、18本のパネルが2枚必要。

PCM温風器のメリットは、何と言っても水を使わないことに尽きます。

水は熱エネルギーを蓄えるには良い媒体ですが、漏水や凍結のある扱いにくい物質です。

寒冷地では循環水が凍ってしまうので不凍液を使わざるを得ませんが、濃度が適切でないと夏は逆に温度が上がりすぎてTPバルブ(圧力バルブ)が頻繁に開いてしまいます。

そうなるとエアが入り、循環ポンプが空回りして熱交換ができなくなってしまうことがあるので、寒冷地で分離分割型を使う場合には、メンテナンスの知識がある程度必要となります。

しかし、空気を媒体とするならそのような心配は全く無くなります。

空気は凍らないし、少しくらい漏れても水のように大騒ぎにはなりません。

価格は10万円以上高くはなってしまいますが、設置費用やメンテナンスを考慮すると逆転する可能性は十分あるのではないでしょうか。

3.中国の普及状況

さて、このPCM温風器を製造している筑能科技社に伺ったのは2016年の7月でしたが、現在はどうなっているのでしょうか。

聞くところによると、大型プロジェクトを続々と行っているとのことで、会社も益々大きくなっているようです。

これはガソリンスタンドのようですが、屋根に4枚載っています。

こちらは何の施設か分りませんが、マイナス35℃の環境での暖房システムのようです。

PCM温風器+ヒートポンプなのでしょうか。

図の下に、”スペース1号”超低温太陽エネルギー、ヒートポンプ暖房原理図とあります。

素晴らしい発想ですね。

私はヒートポンプには詳しくはありませんが、エコキュートもその一つで、空気を圧縮して熱を発生させる仕組みのようです。

しかし、北海道のような極端に寒い地域では冷たい空気を圧縮しても効率は悪いようで普及はしていないと聞いています。

また、タンクにお湯を貯めておくことも冷める(放熱)原因となり、効率は非常に悪くなるので当然と言えば当然です。

ただ、このケースのようにマイナス35℃であっても、太陽で大幅に空気の温度を上げることによってヒートポンプの効果が最大限に生かされることになります。

日本のメーカーがこれをやらないのはどうしてでしょうか。

4.まとめ

今回比較して改めて思ったのは、PCM温風器でお湯を沸かすのは、分離分割型よりも設置がかなり簡単であることでした。

貯湯タンクへの供水までの配管は同じですが、循環系の配管が必要ないのは大きなメリットです。

それから、同じ300Lでもパネルも1枚で済みますから、作業時間も大幅に少なくなりますし、漏水や凍結の心配がありません。

ただ、多くの方が心配されるのはPCM温風器の熱量がどれくらいなのかと思います。

この写真は、以前に発生状況を試験したものですが、採熱器から出てくる温風は100℃以上を確認しています。

日照が十分ならば、300Lの水を30℃上昇させることは十分に可能と思われます。

PCMの能力については、現在は生産中止ですがPCM太陽熱温水器で確認していますからまず問題ありません。

ただ、風管がΦ100mmと水道管に較べてかなり太いので、採熱器と貯湯タンクの距離が長いと管材及び保温材のコストが嵩むだけでなく、放熱ロスも大きくなります。

そこで、こんな設置を考えて見ました。

PCM温風器による温水利用のイメージ

これは地上設置のケースですが、PCM温風器の後ろに貯湯タンクを配しています。

これなら風管が短くて済み、作業もやり易いですし、極寒冷地の場合には小さな小屋を作ってタンクを収めるのが良いのではないでしょうか。

給湯ボイラーまでの配管は、地中に埋設することにより凍結と放熱を大幅に軽減できます。

また、積雪の多いところなら貯湯タンクのための小屋を作り、その上にPCM温風器を載せれば良いでしょう。

もはや、日本は太陽熱利用技術では中国に遠く及びません。

未だに平板型の太陽熱温水器を使っている(売っている)信じがたい国です。(苦笑)

PCM自体はそれほど新しい技術ではないのですが、良い物ならば時間はかかってもいずれ普及するはずです。

何と言っても空気を使って、お湯を作ったり暖房ができるのなら誰でもやってみたいのではないでしょうか。

私も分離分割型の説明をするのが面倒なので、今後はPCM温風器をお薦めしていきたいと思います。